事情が事情なら

ちょっと拙い対応の大型書店のレジの女性。接客に慣れていない様子。やさしい緊張が伝わってくる。胸には研修生の文字。そういうことなら時間がかかっても一向にかまわない。領収書をくださいとゆっくり説明する。なにか新しい感情が生まれてくる。一枚一枚確かめるように硬貨をつまむしぐさや、ボールペンをスラスラと走らせる指がなまめかしい。素敵だ。映画の中にいるようだ。名札を見ると中国名だった。どうりでさっきから彼女の日本語のニュアンスにちょっとしたちがいを感じていたわけだ。見えるか見えないかぐらいのほんの少しの金のアクセサリーが手首をすべり、異国のビューティを発する。こんなに美しい人をぼくはそうそう知らない。テレビでもなかなかお目にかかれない。「初恋のきた道」のチャン・ツィイーのような恥じらいが真白い雪のように清潔だ。事情が事情なら、ぼくは恋をしていただろう。